法務省がネット版「部落地名総鑑」の削除強化の通知
2018年12月27日に法務省が各地方法務局に対して、ネット上での同和地区情報は原則として削除要請等の措置の対象とする通達を出しました。
鳥取ループ・示現舎が「部落差別解消」「研究」などと標榜し、「部落探訪」で同和地区情報などを晒すことも「目的の如何を問わず、それ自体が人権侵害の恐れが高い」として、削除要請に取り組むように指示しました。
ただし、例外的に「学術、研究等の正当な目的による場合であって、かつ、個別具体的な事情の下で、当該情報の適示方法等に人権侵害の恐れが認め難い場合や、社会通念上、当該情報を公表する合理的な理由が認めらる場合」を除くとしました。
以下が、法務省通達の全文です。
法務省権調第1 2 3 号
平成30年12月27日
法務局人権擁護部長殿
地方法務局長殿
法務省人権擁護局調査救済課長
( 公印省略)
インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について(依命通知)
今般, インターネット上の同和地区( 被差別部落)( 以下, 単に「同和地区」という。) に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理についての考え方を下記のとおり整理しましたので, 今後は, これに従って取り扱い願います。
記
1 従前の取扱い
インターネット上で, 特定の地域が同和地区である, 又はあったと指摘する情報については,「インターネット上の人権侵害情報による人権侵犯事件に関する処理要領について」( 平成1 6 年1 0 月2 2 日付け権調第6 0 4 号法務局人権擁護部長,地方法務局長あて当職通知。 以下「平成1 6 年当職通知」という。) に基づき,「不当な差別的取扱いをすることを助長し,又は誘発する目的」( 以下「助長誘発目的」 という。) が存する場合に削除要請等の措置の対象としているところである。
特定の地域が同和地区である,又はあったと指摘する情報の中には,差別解消目的を標榜し,紀行文の体裁をとっているものもあるところ, 従前, この種の情報については, 助長誘発目的が必ずしも明らかでないとして, 削除要請等の措置の対象としないことが多かったと思われる。 しかし, 以下のとおり, 部落差別の特殊性を踏まえると, このような運用は, 見直す必要があると考えられる。
2 部落差別の特殊性を踏まえた識別情報の摘示に関する考え方
( 1 ) 一般的に,「人種,民族,信条,性別,社会的身分,門地,障害,疾病又は性的指向」に関する識別情報を摘示するだけでは, 直ちに人権侵害のおそれがあるとまでは言い難く, 表現の自由として許容される場合もあり得るところである。そこで, 平成1 6 年当職通知 は, 助長誘発目的を要件とし, 識別情報の摘示のうち人権侵害を助長・誘発するおそれが高い, すなわち違法性( 注) のあるものを類 型化し, そのような場合は特定人に対する人権侵害の発生の有無にかかわらず, 削除要請等の措置の対象とするという方針を示したも のである。
このように, 助長誘発目的の要件は, 識別情報の摘示のうち, 違法性のあるものを類型化する機能を有するものであるが, 同和地区に関する識別情報の摘示については, 別段の考慮を要する。すなわち, 部落差別は, その他の属性に基づく差別とは異なり, 差別を行うこと自体を目的として政策的・人為的に創出したものであって,本来的にあるべからざる属性に基づく差別である。また, このような不当な差別の対象とされる人々が集住させられた地域であるかつての同和地区は, 差別の対象を画定するための地域概念とされてきたものである。
このような地域概念と密接に結びついていた部落差別は, 個人の尊厳や法の下の平等を基本的価値とする現行法秩序とおよそ相容れないものである。それにもかかわらず, このような身分差別が廃止され, 1 0 0 年以上が経過した現在もなお, その地域の居住者, 出身者等について否定的な評価をするという誤った認識が国民の一部に残っている。
このような現実を前提とした場合,特定の者を同和地区の居住者,出身者等として識別すること自体が, プライバシー, 名誉, 不当に差別されない法的利益等を侵害するものと評価することができ, また, 特定の者に対する識別ではなくとも, 特定の地域が同和地区である, 又はあったと指摘する行為も, このような人権侵害のおそれが高い, すなわち違法性のあるものであるということができる。
このように, 特定の地域が同和地区である, 又はあったと指摘する情報を公にすることは, その行為が助長誘発目的に基づくものであるか否かにかかわらず, また, 当該地域がかつての同和地区であったか否かにかかわらず, 人権擁護上許容し得ないものであり, その点で, 他の識別情報と性質を異にするものである。したがって,
「○ ○ 地区は同和地区であった( ある)。」などと指摘する識別情報の摘示は, 原則として削除要請等の措置の対象とすべきである。
各局においては,この種の情報について,上記の考え方に基づき,適切に立件・処理されたい。
( 注) ここにいう「違法性」は, 行為自体の危険性に着目したものであり, 特定人の権利・利益の侵害を要しない点において, 民法第7 0 9 条の不法行為責任が成立する場合におけるそれとは異なる。
( 2 ) もっとも, 特定の地域が同和地区である, 又はあったと指摘する情報であっても例外的に削除要請等の措置を講じるのが相当でない場合も考えられないではない。例えば, 学術, 研究等の正当な目的による場合であって, かつ, 個別具体的な事情の下で, 当該情報の摘示方法等に人権侵害のおそれが認め難い場合や, 社会通念上, 当該情報を公表する合理的な理由が認められる場合等である。
このような例外に該当するか否かについては, 個別の事案ごとに実質的に判断する必要があるので, 各局においては, 人権侵犯事件調査処理規程第2 2 条に基づく報告を行うことはもとより, 立件の可否について疑義がある場合には, 事前に当課宛て照会されたい。
3 平成1 6 年当職通知との関係
平成1 6 年当職通知は, 違法性のあるインターネット上の情報のうち典型的なものを例示するとともに, これらの事案の処理の統一を図るための指針を示したものに過ぎない。したがって, 同通知に列挙されたもの以外のものであっても,違法性が認められるものについては,人権侵犯事件調査処理規程等に基づき, 立件・処理すべきはもちろんである。
上記のような部落差別の歴史的本質を踏まえると, 同和地区に関する識別情報の摘示は, 目的の如何を問わず, それ自体が人権侵害のおそれが高い, すなわち違法性のあるものであり, 原則として削除要請等の措置の対象とすべきものであるので, 今後は, 上記2 に従って処理されたい。