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2019-05-07

朝日新聞に川口事務局長の取材記事が掲載されました(2019.5.5)


朝日新聞(2019年5月5日)に川口事務局長の取材記事が掲載されました。
「通わぬ言葉」の第3話。

さらされた「部落リスト」-タブー意識 語られぬ差別

東海地方の20代女性が両親に結婚相手を紹介したのは、昨年末のことだ。家族のお祝いムードは、父親のネット検索で一変した。

「〇〇は部落」

相手の住所が被差別部落の地区だとされていた。「娘がつらい目に遭うかもしれない」と父親に結婚を反対されたと、女性は住んでいる自治体に相談した。娘を差別に巻き込みたくないという「親心」が父親を差別する側に変え、かえって女性を苦しめることになった。

ネットに再び

全国各地の地名を被差別部落だとする「リスト」がネット上にさらされるようになったのは十数年前。1970年代にも、被差別部落の地名をまとめた本「部落地名総鑑」を企業が採用時の身元調査に使っていたとわかり、社会問題になった。法務省が回収して廃棄。あれだけ社会がなくそうと動いた情報が、ネットで別の形で姿を現している。

公開したひとり、神奈川県に住むプログラマーの男性(40)は、取材にこう答えた。「被差別部落の場所を正しく知ることが、部落問題の議論の土台になる。公開は研究の自由にあたる」。自分がつくった地名リストによって差別を受ける人もいるとは思うが、「極めて少ない。差別をなくすために公開するメリットの方が大きい」と強調した。

しかし、この「リスト」が人々を傷つけている。出自を自ら名乗り出ることと、第三者から一方的に公開されることは違うとして、被差別部落出身者がリストの削除を求めて提訴。裁判は続いている。

近世で被差別階層とされた人たちが住んだ場所に由来する差別。さらされるのは地名だけではない。被差別部落だとする映像に不安をかきたてるような音楽を重ねた動画、「部落は犯罪が多い」など、根拠のない情報があふれる掲示板。

山口県人権啓発センター事務局長の川口泰司さん(40)は被差別部落出身で、差別問題の講演を重ねるうちに、ネットに自宅住所を書き込まれた。2017年冬、年賀状が届いた。被差別階層とされた人に対する差別用語「エタ」に続けて「死ね」と書かれていた。気づいた小5の長女が「パパ、大丈夫なん? 死なんよね?」と言った。

川口さんは「社会には、引っ越して住んだり、親族の結婚で部落出身者と関わったりすることで、自分まで『部落側』にくくられたくない、という意識が残る」と指摘。人々の理解のなさからくる忌避意識が「リスト」と結びつき、差別が深まるという。

「なんか怖い」

メディアにも避ける意識があった。70~80年代、被差別部落をめぐる差別表現で反差別団体から抗議を受けた後、正しく理解して報道するというより、差別問題そのものを扱わない傾向がみられた。

そんな「タブー意識」を打ち破ろうと、昨年11月にネットテレビ局・アベマTVが「部落ってナニ?」と題して放映した。被差別部落の出身者らが、司会でタレントのSHELLY(シェリー)さんの質問に答える形のトーク番組。SHELLYさんも話しづらさを感じた経験を紹介した。「以前、ある番組で誰かが部落の話をしたら『言っちゃだめ』みたいになった。話しちゃいけないんだって思った」

放映中に番組へ寄せられたコメントは「差別なんかない」など否定的な内容が多かったが、「今もこんなひどいことがあるなんて」「勉強になった」との感想もあった。アベマTVプロデューサーの鎮目(しずめ)博道さん(49)も今回、初めて部落差別の問題を取材した。「差別が生まれた経緯や当事者のことを知らないまま、『なんか怖い』『なんか面倒』という根拠のないイメージだけが受け継がれているのではないか」

話題にしなければ忘れられ、やがて差別がなくなる。そんな意味で「寝た子を起こすな」という言い方もあったが、いま、ネットなどでより見えにくい形で差別は起こされる。鎮目さんは「議論しないことこそが、差別を助長してしまう」と思う。

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