toggle
2015-01-07

「プライム事件と身元調査の現実~闇の個人情報売買ビジネス~」 川口泰司(山口県人権啓発センター)


プライム事件と身元調査の現実~ 川口泰司さん(山口県人権啓発センター)
更新日:2015-01-07

プライム事件と身元調査の現実~闇の個人情報売買ビジネス~
山口県人権啓発センター 事務局長  川口 泰司

1,プライム事件の経過

◆横浜の探偵社、プライム社長、司法書士ら5人が逮捕

2011年11月、東京都内の「プライム総合法務事務所」社長、同社の佐藤隆・司法書士、元弁護士、横浜の探偵社社長、京都のグラフィックデザイナーら5人が逮捕された。プライム社長は、横浜の探偵社からの依頼にもとづき、佐藤隆・司法書士の名義(偽造した「職務上請求書」)を使い、3年間で1万件を超える戸籍・住民票を全国の自治体から不正取得していた。山口県内でも9市で77件の被害が明らかになっている。プライム社長と横浜・探偵社社長らは3年間で2億3500万円を稼いでいた。

プライム事件はその後、名古屋地裁で裁判がおこなわれ、地裁はプライム社長に懲役3年の実刑、横浜の探偵社社長に懲役2年6月の実刑、司法書士に罰金250万円、元弁護士に懲役2年(執行猶予4年)、グラフィックデザイナーに懲役1年6月(執行猶予3年)を言い渡した。

今回の戸籍不正取得事件の特徴は、その数の多さと手口の巧妙さにある。「職務上請求書」を2万枚も偽造し、佐藤司法書士がプライムに名義貸しを行い全国で1万件にも及ぶ戸籍謄本等の不正取得をおこなったことである。

◆職務上請求書の偽造による大量不正取得
弁護士、司法書士、行政書士などの8業士は「職務上請求書」を使えば、本人の同意なく戸籍謄本等が請求できる。しかし、不正取得があいつぐなかで、業界団体も内部で厳しい規制をかけている。司法書士会では、一度に50枚のつづりを渡す。請求書には全て通し番号が書かれており、使用後は、カーボンの控えを提出し、司法書士会の職員がチェックすることになっている。そのため、大量に使用したり、他人に譲渡したりすると簡単にばれてしまう。そこで、プライム社は職務上請求書そのものを2万枚偽造し、使用していた。これらなら、いくら使っても使用後の控えを提出する必要がないため、不正使用が発覚しにくかった。

プライム社の司法書士は、逮捕時はタクシーの運転手をしていた。法廷では「資格を取って事務所を開いたが、お客がこないので、3ヶ月で事務所をたたんでタクシーの運転手になった」と語っている。その後、「司法書士求む」という新聞広告に応じてプライム社に面接に行くと「ハンコと業界の申請書を渡してくれれば月35万円払う。会社には来なくていい」と言われ、実際にプライム社での勤務実態はなかった。プライム社社長らは、佐藤隆の行政書士の名義を使用し、不正取得を繰り返していた。

◆「情報屋」を介した大規模な依頼ルートの存在
プライム社は3年間で1万2500件の戸籍・住民票の不正取得をおこなっていた。これだけの依頼を全国の探偵社・興信所から受けることが出来た背景には、情報屋を介した大規模な依頼ルートがあったからだ。

2012年9月、今回の事件の中心的存在である名古屋の情報屋(調査会社)代表ら3人が逮捕された。情報屋とは、探偵に各種の個人情報を売買する、いわゆる個人情報の「仲介業者」である。全国の探偵社などから個人情報の注文を受け、司法書士や行政書士、企業や行政の内部協力者から個人情報を不正取得し、各地の探偵社に売買していた。

まず、
➀依頼者が知りたい人物の身元調査を探偵社に依頼する。
➁探偵社が名古屋の「情報屋」へ注文。③「情報屋」が横浜の探偵社へ依頼。
➂横浜の探偵社はプライム社(司法書士名義)を通じて、全国の市区町村窓口から戸籍・住民票を取る。
➃それを逆コースでお客に返すという仕組みだ。その際、グラフィックデザイナーが職務上請求書の画像処理をしてプライム社・佐藤司法書士の名前を消去し、依頼者へ報告していた。

名古屋地裁は情報屋代表に対して罰金200万円、元従業員2名にそれぞれ100万円を言い渡した。起訴状では愛知県内の男性ら2名の戸籍不正取得についての判決であったため、200万円の罰金刑で終わっている。5年間で12億7000万円を儲けていた彼らにしてみれば、200万円の罰金で済んだことは、大した痛手ではない。

◆群馬の探偵社、東京・調査会社、行政書士ら逮捕
さらに名古屋の情報屋はプライム社(横浜ルート)とは別に、「群馬ルート」と呼ばれる戸籍入手ルートも確保しおり、2012年9月、群馬の探偵社代表(群馬ルート)、東京の調査会社「エス・アール・シー」(SRC)社長大沼源、谷口信寿・行政書士らも逮捕された。

プライム社と同様、情報屋から、群馬の探偵社を通じて、東京の「エス・アール・シー」が、偽造「職務上請求書」(行政書士名義)を使い、全国の自治体から2万件を超える戸籍謄本等の不正取得を繰り返していた。山口県内でも13市町、122件の被害が明らかになっており、これまでの不正取得事件では過去最大の被害となった。

逮捕された行政書士は、2003年に資格をとったが、10年間、実際に行政書士として業務をおこなったことはなかった。SRC代表の大沼から、月30万円で名義貸しを依頼されて、「職務上請求書」の偽造使用を承知の上で、行政書士会の会員証と職員をSRCに預け、不正取得に荷担していた。

SRC代表の大沼源は、警察OBで退職後、1978年に東京行政書士会へ入会。1993年頃から職務上請求書を偽造し、偽造請求書を他の探偵社に販売するなど、独自に注文を受けて不正取得をおこない、20年間で巨額の利益をえていた。

SRC代表は1年間で1億5千万円、群馬・探偵社社長は4年間で4億5千万円を稼いでいた。戸籍1件あたり約1万円で売っていたことを考えれば、膨大な数の依頼があり、それがビジネスとして成り立つほど需要があることをこの事件は表している。

2,「取れない情報はない」~各種の個人情報も不正取得~

今回の一連のプライム事件では、戸籍・住民票の不正取得だけでなく、同様の手口で、職歴情報、携帯情報、車両情報、住基情報(住所、離婚歴、所得等)、信用情報(借金情報)、電力契約者情報なども売買されていた。すべてに情報屋が関与しており、恐るべき闇の個人情報不正売買ビジネスの実態が浮き彫りになった。

◆信用情報(借金)
プライム社代表と横浜の探偵社は、戸籍・住民票以外にも信用情報機関から借金情報を不正取得しており、2012年1月に再逮捕された。プライム社は、東京の貸金業者を通じて日本信用情報機構から全国2200人分の借金状況(クレジットやローン内容や残高、返済状況等)を違法入手していた。

貸金業法の改正により、借金総額が年収の3分の2以上となる貸し付けが禁止された。貸金業者は貸し付け前に、信用情報機関から借金の現状を照会し、貸し付けたら報告することが義務づけられている。

プライム事件とは別に、2012年4月東京の貸金業者と探偵社ら11人が次々と逮捕され、不正取得された信用情報は企業の採用調査に利用されていたことが明らかになった。
逮捕された探偵社の中には、(社)日本調査業界協会の元専務理事・東京都調査業協会会長もいた。

◆職歴情報(ハローワーク横浜職員)
プライム事件に関連して、2012年6月、3000件を超える職歴情報の漏洩で、ハローワーク横浜の職員と神奈川県内の興信所代表が逮捕された。ハローワーク横浜の非常勤職員が、職安の端末から1件1万円で職歴情報を神奈川の興信所に提供し、興信所が名古屋の情報屋に売買していた。雇用保険の被保険者の職歴情報は、全国の端末2万5千台をオンラインでつなぎ、全国7千万人分の職歴情報が検索できるようになっていた。

名古屋地裁は、職安職員に懲役2年(執行猶予3年)、神奈川の調査会社代表に懲役1年6月(執行猶予3年)を言い渡した。

ハローワーク横浜の職員であった40代の女性は、2000年からハローワーク横浜に勤務するようになったが、給料が安いので興信所に転職しようと面接を受けたところ、その社長から「うちで働くより、ハローワークの勤務を続けて職歴情報を取ってくれ」と頼まれて、それ以来12年間にわたり、職歴情報を横流していた。4年間で3000件以上、多いときでは、職安職員は月100万円の報酬を受け取っていた。

◆携帯電話の顧客情報(ソフトバンク・ドコモ・au 2012年6月)
プライム事件は、これで終わらなかった。2012年6月、岡山のソフトバンク店長と広島の探偵社社長が逮捕された。1200件以上もの携帯電話の顧客情報が売買されていた。その後、香川と広島のソフトバンク店員(133件)、NTTドコモ・東京立川支店職員(880件)、au千葉・船橋代理店員(50件)など各地の販売店の社員と探偵社が次々と逮捕された。

「ドコモ」「ソフトバンク」「au」大手3社の契約数は約1億3000万台にもなる。販売店のパソコンは全国の端末につながっており、携帯番号だけで所持者の住所や自宅電話、銀行口座などがすぐにわかり、逆に氏名が分かれば携帯番号を特定できる。探偵社の中には、堂々とチラシをつくり、「ドコモ番号から契約者・住所」は1万6500円、「ドコモ番号から契約者・氏名」は6万7000円などと一覧表が掲載されていた。

財団法人・日本データー通信協会によると、携帯電話会社を含む電気通信事業者の漏洩事案は、2011年度だけで796件に上っている。ある携帯電話会社幹部は「個人情報に触れる業務がある以上、漏洩を完全に止めることは出来ない。せめて研修を増やして、店員のモラルを向上させていくしかない」と語る。

◆車両情報(長野県警察官、運輸局職員、2012年7月)
次は、長野県警の巡査部長2名、県警OBの探偵社社長が2012年7月に、車両情報漏洩で逮捕された。交番や駐在所に設置されている「警察情報システム」では、駐車違反などの取り締まりを目的として、車両ナンバーが分かければ、持ち主の氏名や住所等の車両情報が分かる。車両情報は探偵社により名古屋の情報屋に1件1万3000円で売られ、数年間で約6000万円の利益を得ていた。

さらに、国土交通省関東運輸局職員と大阪の探偵社も車両情報漏洩で逮捕された。関東運輸局の非常勤職員は、1件1万2000円で大阪の探偵社へ売買されており、2011年の一年間だけで300件以上の漏洩をおこなっていた。

二つのルートは、いずれも全国の依頼者が、興信所や探偵社を通じて名古屋の情報屋に集められ、この情報屋から長野県警ルートと運輸局ルートに振り分けられていた。

◆住基情報漏洩(船橋市職員)
プライム事件の捜査で愛知県警は2012年10月、住基情報漏洩で千葉県船橋市職員と千葉の探偵社を逮捕した。逮捕された船橋市職員は、市民税課の非常勤職員であり、船橋市民60万人分の住民基本台帳や納税者情報を閲覧できる職務権限があった。職場の端末を使い、依頼者の氏名、生年月日、住所、転居歴、家族構成、勤務先、年収、離婚歴などを調べ、千葉県の探偵社に1件、数千円から数万円で売っていた。

◆電力顧客情報(関西電力子会社)
個人情報売買ビジネスの裾屋は広い。電力会社の顧客情報(氏名、使用場所、振込口座など)が売買されていたとして、2012年11月、関西電力コールセンターの契約社員と大阪の探偵社代表が逮捕された。逮捕された探偵社も、名古屋の情報屋に顧客情報を売買していた。

電力の顧客情報は「最も高い確率で居住実態をつかめる」として、探偵業界ではニーズの高い情報の一つになっている。住民票の転居届けを出していなくても、ライフラインである電気は契約している。電力の顧客情報は、地域の居住者をほぼ網羅しており、調査対象者の氏名だけで、居住地を突き止めることがきる。

ある調査業者は「名前が分かれば、行方不明になっている調査対象者の居住地を割り出すことが可能だ。逆に、調査対象者を尾行してマンションの部屋番号さえ分かれば、電気の契約社情報をもとに、名前や連絡先まで特定できる。」と明かしている。また、このような手法は、ストーカーや振り込め詐欺などの犯罪に悪用される場合もあると、捜査関係者は話している。

現在、関西電力は、大阪、兵庫、京都、滋賀、三重など近畿全域をカバーしており契約数は約1351万口(法人含む)である。逮捕された契約社員は、全ての顧客情報にアクセスできる権限を持っていた。関西電力と同様に、東京電力や中国電力、九州電力などの電力会社や子会社なども、再発防止に向けて徹底した対応が必要である。

 

3,事件の背景にあるもの~情報化社会の進展と個人情報保護~

◆不安定雇用と内部協力者の存在
IT化が進み、業務の効率化などから今や多くの企業や行政機構では、オンラインで情報の共有がされている。全国の情報をどこからでも引き出せるということは、内部協力者さえ見つければ、そこから次々と情報が取れ、これが闇の個人情報不正ビジネスを支える形になっていた。

また、摘発された従業員の多くが、その情報が何に使われているかなど知らず、生活費や遊ぶ金欲しさに、罪の意識が薄いまま不正を続けていた。結婚資金を得るためと不正に手を染めた携帯電話の女性店員は、裁判で「こんな大事になるとは思わなかった」と語っている。戸籍の不正取得でも、逮捕された司法書士と行政書士は、実際には業務をおこなっておらず、月30万円程で名義を貸して、不正取得に加担していた。

また、今回の事件で逮捕された協力者の多くが、契約社員や非常勤職員、パートやアルバイトなどのワーキング・プアであり、格差社会が進行し、貧困者が激増している日本では、どんなに厳重にセキュリティをかけても、金に目がくらみ犯罪に手を染める人間があとを絶たない。一度でも不正取得に協力すると「ばらすぞ」と脅され、抜け出せなくなる。内部協力者は非正規社員であり、ある程度稼いで、不正がバレそうになったら、すぐに会社を辞める。ある探偵業者は協力者獲得について、「借金まみれの人を見つけ『データーを持ってくれば小遣いをやる』と言えば、ほとんどが情報を取ってくる」と明かす。こうして、次から次へと協力者は確保されていく。

◆「取れない情報はない」情報屋
今回の事件で情報屋から個人情報を買い付ける業者は、最終的におよそ1500人にものぼるといわれている。探偵社には、結婚調査、浮気調査、素行・行動調査、失踪人調査、信用調査、いたずら・いやがらせ調査など、様々な調査依頼があり、調査に応じて対象者のあらゆる個人情報が必要となってくる。

例えば、結婚相手の身元調査であれば、家族構成や職歴・学歴、年収や借金、異性・交友関係、被差別部落出身、民族・国籍、宗教、障害者の有無など多岐にわたる。当然、調べる調査項目が増えるほど、料金は高くなる。そうしたニーズに応えるために、情報屋は、各種の個人情報を引き出せる探偵業者・協力者を探して、扱う情報を年々増やしていった。

さらに複数のルートを作り、内部協力者が離職しても、また別のルートから仕入れるようにして、常に情報を供給できる仕組みを構築していた。実際に名古屋の情報屋は、2011年11月にプライム社が逮捕された後も、群馬ルートを使用し、昨年9月に逮捕されるまで、戸籍の不正取得を繰り返していた。

これほど大規模な身元調査の闇ネットワークが存在していたため、警察が探偵社や関係者の家宅捜索を行えば、別の種類の不正取得が発覚し、司法書士、行政書士、元弁護士、職業安定所、携帯電話会社、警察、関東運輸局、電力会社、貸金業者、市役所などの内部協力者と探偵社が次々と摘発され、逮捕者は30人を超えている。このように「取れない情報はない」といわれるほどの個人情報不正ビジネスが構築されていた。

現在でも、各地の探偵社のホームページ上には、「携帯番号調査」「固定電話番号調査」「銀行口座調査」「サラ金調査」「借金調査」「勤務先・職歴調査」「自動車ナンバー調査」「住民票・戸籍謄本の取得」「不動産調査」「郵便物の転送先調査」「住所・生年月日・号室番号調査」「無料電話番号検索」などの調査項目が書かれている。「不動産調査」、「郵便物の転送先調査」については、今回のプライム事件では発覚しておらず、不動産関係者や郵便事業者に内部協力者がいる可能性が高い。闇の個人情報ビジネスの根深さを痛感させられる。

また、ネットワークの大小はあるが、全国に同様の情報屋は多数存在しており、2012年7月、東京の情報屋(調査会社)代表、鹿児島の行政書士と探偵社らが戸籍等不正取得で逮捕された。その後の捜査で、東京の情報屋には、別に3人の行政書士も協力者として存在し、他に400件の戸籍不正取得が明らかになっている。名古屋の情報屋と同様に、背後に身元調査のネットワークがあることが明らかになっている。

◆身元調査の規制と個人情報保護の強化
情報屋がここまで大規模なネットワークを構築し、闇の個人情報ビジネスとして成立していった背景には、身元調査に対する規制や個人情報保護の強化が影響している。

この間、部落解放運動は、一貫して身元調査・戸籍制度と闘ってきた。戦前においては、全国水平社によって、壬申戸籍などに記載された「元穢多」「新平民」などの族称欄廃止の運動が展開され、戸籍簿から族称欄を撤廃させた。

戦後においても結婚や就職の際、戸籍を用いた身元調査が後を絶たなかった。1975年に発覚した部落地名総鑑事件を機に、1976年に戸籍法の改正を勝ち取り、他人が戸籍を取れなくした。しかし、戸籍を規制すると今度は住民票で「本籍」を調べ、身元調査を行う事件が続発したため、1985年住民基本台帳法を改正させ、住民票の自由閲覧を制限した。すると今度は、国家資格のある行政書士や司法書士などに依頼し、戸籍や住民票を不正取得しはじめた。

一方で、情報化社会の進展とともに、民間企業にけるあいつぐ個人情報漏洩事件や、ダイレクトメールによる販売や振り込め詐欺、悪徳リフォーム、インターネットにおける個人情報の無断公開など、行政・民間が保有する膨大な個人情報がプライバシー侵害や犯罪に使われる事件が急増した。このため2005年に「個人情報保護法」が施行、2006年には営利目的(入学式や成人式のDM等)での住民基本台帳の閲覧が禁止され、戸籍や住民票はもちろん、さまざまな行政・民間情報が保護されるようになった。

その後も、探偵社と結託した行政書士や司法書士などによる戸籍不正取得事件はあとを絶たなかったため、2006年に初めて探偵業者を規制する「探偵業法」が成立した。同法では、探偵業者は公安委員会に届け出制になり、依頼者と「調査結果を犯罪行為、違法な差別的取り扱いに用いない」旨の契約書を交わすことを義務づけ、「違法な差別的取り扱いを知ったときは、探偵業務を停止」「探偵業者は、探偵業務を探偵業者以外の者に委託してはいけないこと」など、違法な身元調査への規制をおこなった。しかし、その後も、不正取得は後を絶たず、委任状偽造、偽造請求書の使用など、網の目をくぐるように、巧妙に戸籍の不正取得が繰り返されてきた。

2008年に改正「戸籍法」が施行され、「なりすまし請求」や「委任状偽造」を防止するため、本人確認の徹底がおこなわれ、行政書士等8業士が請求する場合でも、本人確認、請求理由の明記を求め、不正行為があった場合には刑事罰が科せられるようになった。また、不正取得の依頼者も同罪で罰せられることになり、身元調査に対する規制が強化された。

このように身元調査の規制・個人情報保護が強化されると、それが逆に不正取得の需要を高めることになっていった。こうした動きに目をつけたのが情報屋だった。名古屋の情報屋は、以前勤めていた調査会社で偽造請求書を使って戸籍の不正取得をする方法を知り2005年に独立し、複数の調査会社を設立した。独立後は戸籍・住民票以外にも手を広げ、各種の個人情報不正入手のネットワークをつくり、5年間で12億7000万円という巨額の利益を得ていた。情報屋は、警察の取り調べに対して「法律が出来たことによって、個人情報を欲しがる探偵が増え、もうかった」と供述している。

4、今後の課題

 (1)不正取得の実態解明、依頼者の摘発を!
◆戸籍、職歴、携帯、車両情報等は何に使われたのか
今回の一連のプライム事件による個人情報大量不正取得事件では、あらゆる個人情報が不正取得され売買さていた。戸籍・住民票は30,000件、借金情報は2200件、職歴情報は3000件、携帯情報はソフトバンク、ドコモ、auの大手3社で3000件、車両情報は4000件、その他、住基・納税情報、電力契約者情報までが売買されていた。これらの不正取得された個人情報が何に使われたのかは、明らかになっていない。

現在、分かっているのは、プライム事件では、不正取得された戸籍により、名古屋市内の女性がストーカーによる被害を受けていた。「関係をばらすぞ。嫌なら付き合いを続けろ」と、知人の男性からストーカー被害を受けた。親戚にまで嫌がらせの手紙が届き、女性は県警に相談。男は脅迫容疑で逮捕された。女性の戸籍謄本がプライム社に取られていた。

また、愛知県警の暴力団担当の幹部に、捜査中止の脅迫電話がかかってきた。「かわいい●●ちゃんがどうなっても知らないぞ」と、幹部の娘の名前を告げた上で、自宅の住所や車のナンバーまで知っていた。調べてみると、携帯番号は、幹部が契約するソフトバンクの岡山市の販売店長が漏らしていた。住所や家族構成はプライム社が戸籍を不正取得していた。車のナンバーは長野県警ルートだった。これがきかっけで、愛知県警が捜査に乗り出し、一連のプライム事件の摘発がはじまった。

さらに、作家の黒川博行さんが週刊誌の記事の中で、作家の本籍地や過去の居住地などが書かれており、該当市に開示請求をかけたところ、プライム社により戸籍が不正取得していたことが明らかになった。マスコミが探偵社に依頼し、プライム社が作家の戸籍を不正取得していた。

以上は、プライム社による戸籍不正取得事件において裁判等で明らかになった一例である。プライム社とSRCにより全国で3万件の戸籍謄本や住民票等の不正取得がおこなわれていたということは、3万件の身元調査の依頼があり、結婚差別、ストーカーやDV、振り込め詐欺などの犯罪に使われている可能性もある。

戸籍であれば3万人、借金情報であれば2200人、職歴情報であれば3000人、携帯情報3000件、車輌情報4000件など、それぞれに不正取得された被害者がいて、それが何に使われたのかは明らかにされていない。今後、これらの解明を急ぐ必要がある。

◆情報屋を利用した探偵社、依頼者の摘発と探偵業法の改正を!

情報屋を利用した全国の探偵社や、探偵社に身元調査を依頼した市民は誰も逮捕されていない。山口県内でも200件以上の戸籍・住民票が不正取得されている。県内の探偵社が、名古屋の情報屋を通じて、戸籍・住民票を不正取得している可能性も高いということである。依頼者がいるから商売としてなりたっており、違法な身元調査を徹底して取り締まっていく必要がある。

今回、全国の探偵業者等から情報屋に3万件の戸籍・住民票の依頼があったにも関わらず、情報屋に依頼した探偵業者、身元調査の依頼をした市民は誰も摘発されない。改正「戸籍法」では、戸籍の不正取得を依頼した人も罪に問われることになっている。今後、情報屋に注文をしていた各地の探偵社の摘発にも、全力で取り組んでいくべきである。

現在、探偵業は、地元の公安委員会に届出をすれば、誰でも無資格で開業できる。例え「違法な身元調査」ではなくても、本人同意のないところで、その人の個人情報を収集し、他人に報告すること自体、問題であるが、だからこそ個人のプライバシーに関わる探偵業者には、国家資格や免許などが必要ではないか。違法な身元調査の防止に向けた研修の義務づけなど、探偵業法を改正する必要がある。

◆8業士団体、探偵業者への人権研修の徹底、厳しい処分を。
一連のプラライム事件では、偽造された司法書士・行政書士の職務上請求書が使用されたが、法定でプライム社長は、「司法書士の前は、弁護士と税理士の職務上請求書を使っていた」と証言している。これだけ厳しくしても不正があとを絶たない背景には、弁護士や司法書士、行政書士や税理士といえども、免許だけでは食べていけない実態があるからだ。

弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士、弁理士、海事代理士の8士業会は、不正防止に向けた内部の指導・研修を徹底するとともに、国は不正取得をおこなった者に対しては資格剥奪などの厳しい処分を行うべきである。これまでは、ほとんどが3ヶ月から1年の業務停止だけで終わっており、1、2年もすればすぐに営業再開しているのでは甘すぎる。

(2)不正取得された本人へ「被害告知」を!

➀被害者本人へ被害告知を(「被害告知」制度)
今回のプライム事件では「横浜ルート」77件、「群馬ルート」123件、両方をあわせると、山口県内でも13市町200件の戸籍・住民票の不正取得があった。具体的な被害は以下の通りである。プライム社とSRCを合計すると、下関市56件、萩市8件、長門市3件、美祢市7件、宇部市17件、山口市25件、防府市13件、周南市16件、下松市7件、光市7件、岩国市31件、周防大島町9件、阿武町1件である。

山口県内でもこれだけの被害があるが、すべての被害者に、その事実が知らされている訳ではない。

逮捕され、裁判で有罪判決が出ているにも関わらず、不正取得された自治体は被害者にその事実を伝えず、放置したままになっている。本人はストーカーや振り込め詐欺、婚約破棄、その他の犯罪などの被害を受けているかもしれない。被害者の権利回復のための法的な手段を行使するにも、まずは被害者にその事実を早急に知らせる必要がある。

被害が明らかになっているにもかかわらず、刑が確定するまで市町が被害告知をしようとしない理由として、与えられた100枚の職務上請求書の中には

①「正当な理由で請求した場合もあるかもしれない」、
②「どれが偽造か見分けられない」、
③「実際に被害があったか分からない」という意見がある。
しかし、これらの考えはすべて間違っている。

今回のプライム事件では、「職務上請求書」自体を偽造しているので、すべての請求が「不正使用」になる。これらの意見に対して、東京司法書士会に問い合わせところ、有罪判決が出ていなくても、「職務上請求書を偽造した時点で、目的外利用にあたり、原本の職務上請求書(発行ナンバー)もすべて無効である」と判断している。つまり、偽造した時点で、すべて「不正」なのである。刑の確定を待つまでもなく、本来なら一刻も早く被害者へ被害告知を行い、被害者救済、二次被害を防ぐ対応をする必要がある。

この間、部落解放同盟山口県連は、被害者にその事実を告知する「被害告知」制度の導入を求めて、県内全市町と交渉をおこなってきた。その結果、県内13市町で被害が明らかになった場合に本人に告知する「被害告知」制度を導入している。今後、県内全市町で「被害告知」制度を導入し、被害告知が導入されるように、引き続き、取り組みをおこなっていく。

②被害告知の基本的な考え方

そもそも、被害告知の前提には以下のような個人情報保護の基本的な考え方があることを確認しておきたい。戸籍・住民票の個人情報以外でも、情報漏洩における被害告知は当然のことである。

まず、「住民基本台帳法」(第3条)には、「市町村長は、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講じるよう努めなければいけない」とされており、不正取得が発覚した場合は、その状況や事情を確認し、そこから生じる二次被害や再発防止に向けた対策を講じていくことが求められている。

また、各自治体の「個人情報保護条例」では、個人情報の保護に関して必要な措置を講じることを求めており、住民票も対象になる。事故や過失などにより個人情報が漏洩した場合には、二次被害を防止するために、その事実を公表し、当該個人情報の主体である本人にも通知を行う措置が講じられている。

さらに、被害告知後、被取得者から不正取得に関連した人権侵害等の問題が提起された場合には、人権関係部署と関係機関が連携して、適切な相談等の対策を講じる必要がある。

ちなみに、ハローワーク横浜職員による職歴情報漏洩事件では、神奈川労働局はホームページで事実を公表し、専用のフリーダイヤルを設置。被害者全員に郵送で被害告知を行い、直接訪問し、お詫びと事情説明をおこなっている。

今後、プライム事件に関わって、戸籍・住民票にも、職歴、携帯、車両、借金、電力契約者、住基・納税情報など、多くの事業主の個人情報漏洩が明らかになっている。被害があったすべての機関で、同様に本人に対する被害告知を行い、事件の真相究明と被害者救済に取り組まなければいけない。

(3)登録型「本人通知」制度の普及を!(不正取得防止に向けて)

◆登録型「本人通知」制度の導入を
次に、戸籍の不正取得を防止するための登録型「本人通知」制度の導入についてである。そもそも自分の戸籍が不正取得され、結婚差別や就職差別などの人権侵害や犯罪に利用された後に、被害告知をされても、もう遅い。そのため、事前に不正を発見し、不正取得をさせない仕組みが必要である。

そこで不正取得の防止に有効な方法として、他人が自分の戸籍や住民票をとった場合に、自治体が本人に知らせる「本人通知」制度という方法がある。これらならば、頼んでもいない委任状や、身に覚えのない行政書士や司法書士などからの請求であれば、不正であるとすぐに分かる。また、不正取得する側は、市民の誰が登録しているか分からないので、不正が発覚するリスクが高くなり、不正取得の抑止力にもなる。

実際に、群馬ルートの主犯核である東京・SRC代表や名古屋の情報屋らは、公判で「本人通知制度を導入している自治体からは戸籍や住民票は取るな」「お客から依頼があっても断れ」と指示を出していたことがわかった。また、2012年7月には、埼玉県の住民が登録型「本人通知」制度によって不正が発覚し、鹿児島県内の探偵社、行政書士、東京の情報屋らが逮捕されている。

本来ならば、全市民を対象に、本人通知する必要があるが、行政の都合(予算・労力)により、通知を希望する人のみを対象にした、事前登録型「本人通知」制度が各地で導入されている。すでに山口県をはじめ埼玉県、香川県、大分県、鳥取県、京都府、大阪市などは全自治体が導入しており、現在、全国で500を超える自治体が導入している。

部落解放同盟山口県連は、登録型本人通知制度の導入を求め、5年以上にわたり、県内の行政とねばり強い交渉を重ねてきた。その結果、県内全19市町で登録型「本人通知」制度が導入されている。

◆登録者を増やし、抑止力をUP
今後は、制度を導入した市町は積極的に登録者を促進していく取り組みをおこなう必要がある。山口県内でも全市町で導入されているが、多くの市民が本人通知制度を知らず、登録者が少ない。これでは、抑止効果すら期待できない。当面、人口の1%を目標に各自治体で登録者促進に向けて全力で取り組む必要がある。

いかに登録者を増やしていくのかは全国的に課題であるが、各地の自治体では、工夫をこらし、登録者を増やしているところもある。香川県では2012年7月に全17市町で登録型本人通知制度を導入した。各市町の窓口では、戸籍や住民票発行で窓口に訪れた人全員にチラシを渡して、同制度の説明と周知をおこない、市町の管理職は全員登録を目標に、職員が積極的に登録し、2ヶ月で2000人(人口100万人)以上が登録している。

兵庫県加東市(4万人)では、本人通知制度を導入し、登録用紙と登録の依頼文を全14000世帯に郵送し、登録者が一気に増えた。登録者が増えたことで、400万円をかけてシステム改修をおこない、事務作業量の軽減と正確さを確保した。システム改修の費用に関しては、それだけ利用者がいるのだから市民サービスの一環として必要経費との判断で予算を確保。

同じく、兵庫県の三木市(8万人)では、登録型本人通知制度を条例化し、自治体職員や教職員、企業、自治会などが積極的に呼びかけて、スタートし3ヶ月で、すでに4000人もの登録者がいる。自治体職員・教職員、その家族が全員登録するだけでも、登録者はかなりの数になる。市民を不正取得から守るためにも、各自が積極的に登録していく必要がある。

◆「登録者」だけでなく「全市民」を対象に!
「本人通知」制度は、本来、希望者だけでなく全員市民に実施されるべきである。制度を知っている人は守られ、知らない人は守られないのはおかしい。そもそも、個人情報保護の大前提は、自分の情報がどう使われるのかは、その人に権利があるという「自己情報コントロール権」の考えが基本である。

長野県松本市(24万人)は、不正取得防止に向け全国で初めて、委任状請求の場合、登録型でなく全市民を対象にした本人通知制度を導入した。本人通知の郵送費だけでも年間50~60万円かかるが、市民の「安心・安全のまちづくり」に予算をつけるのは当然という市の判断で実施している。導入後、市民や議会からの反発はなく、逆に、住民からは、行政が自分たちの個人情報をしっかりと守ってくれている、人権を大事にしてくれていると、評価されている。

鳥取県米子市では、登録型本人通知制度と委任状請求の全市民型を併用して実施している。

一方、市町が全市民を対象にしない理由として「事務作業量が増える」「お金がかかる」ということがある。戸籍や住民票はセンシティブ情報であり、不正取得により、深刻な人権侵害や犯罪などに使われることを考えれば、「事務作業量が増える」「お金がかかる」というのは言い訳にならない。

事務作業が増えるというが、現在はすべてコンピューター化されており、住民票を発行したら自動的に、宛名・住所の入った本人通知の文章がプリントされる仕組みが可能になっている。作業といえば、それを窓付の封筒(一部が透明のビニールで小窓のもの)に封入する作業ぐらいである。窓付封筒であれば、宛名書きもする必要はなく、そのまま封入するだけである。あとは、一日一回、まとめて郵便ポストに入れればいいだけである。実際、人口24万人の松本市は、この方法で委任状請求の場合、全市民を対象にして本人通知をおこなっており、市の担当者は「そんなに事務作業が増えて負担になっていることもない」と語っている。

どうしても予算が厳しいというなら、郵送料に関しては、戸籍を必要とする請求者本人に負担させればいい。例えば、行政書士などが「職務上請求書」を使い、郵送請求してきた場合、その行政書士に切手代80円を上乗せした金額を手数料として払って貰えばいい。そうすれば、自治体が郵送費を負担する必要はない。

ちなみに、同じ行政でも、税務署では、委任状などの第3者の請求・申請に対しては、その場で、一度、直接本人に電話確認している。本人が仕事中などで連絡がとれない場合は受理・発行せず、改めて出直してもらう。納税情報・所得情報というセンシティブ情報を扱っているという認識のもと、委任状偽造、不正請求を防ぐために、そこまで徹底している。逆にここまで本人確認を徹底すると「委任状請求は面倒だから、自分でやる」と委任状請求自体が減っているので、委任状の本人確認の事務作業も少なくてすむし、各種証明書の提出先も、最低限の証明書添付に条件が見直され、事務作業が減っているという。

戸籍や住民票発行のセキュリティを厳しくすることで、逆に委任状請求などの第3者請求を減らし、事務作業量の軽減につながるという側面もある。しかも、委任状偽造や不正取得の防止にもつながり、一石二鳥である。

そもそも市民の人権を守るのが行政の基本であり、防犯にはお金がかかるのは当たり前。不正に取得された戸籍により、深刻な犯罪や結婚差別など市民の人権が脅かされるのであれば、予算をつけて市民の人権、安心・安全を守るのは当然である。

各地自治体が先駆的に本人通知制度を導入しているが、最終的には戸籍法・住基法の改正をおこない、全国で同様の制度が実施されるようにする必要がある。制度がある自治体は守られ、制度がない自治体の市民は不正取得され放題というのはおかしい。

 

(4)人権教育・啓発の充実を=身元調査の依頼者がいるから商売が成立

◆依頼の8~9割は結婚相手の身元調査
プライム社の社長は、公判廷で「依頼の85%から90%は、結婚相手の身元調査と浮気調査だった」と証言しており、不正取得された戸籍・住民票が差別身元調査に使わされた可能性がある。

また、横浜の探偵社社長は2007年に三重の戸籍不正取得事件で行政指導を受けたにも関わらず、その後もプライム社を通して、不正取得を繰り返していた。前回の事件で探偵社社長は500件のうち「半数は結婚相手の身元調査だった」と述べている。当時、山口県内でも宇部市、柳井市、岩国市で23件の被害があり、すべて結婚調査に利用されていた。

名古屋地裁で開かれたプライム社の社長は悪びれた様子もなく「うちは全国の3分の1くらいやっていただろう」と証言した。その後、摘発された群馬ルート・東京SRCが2万件の不正取得をおこなっており、プライム社と合わせると、この数年間で3万件もの戸籍・住民票が全国の自治体から不正取得されている。「依頼の半分が結婚相手の身元調査」としても、1万5千件が、結婚調査に利用されていることになる。結婚における根強い身元調査の実態が明らかとなった。

◆根強い部落への忌避意識
2009年の「山口県人権意識調査」では、同和問題に関する問題点として「偏見が残っている」56%、「結婚問題で周囲が反対する」28%であった。

結婚問題の根深さは各地の意識調査の結果を見ても明らである。結婚での身元調査に関して「身元調査は、現在でもある程度は必要なことと思う」42.6%(福岡県2001年)、「当然」「感じはよくないが必要だ」合計43.7%(三重県2004年)と、半数近くの人が結婚に際しての身元調査を肯定している。

結婚相手の気になることでは、「相手が同地区出身かどうか」20.1%(大阪府2005年)、「子どもの結婚相手が同和地区出身かどか」23.9%(兵庫県尼崎市2007年)に達している。

また、結婚相談所を対象にした調査(2003年大阪)では、結婚がまとまらなかった要因として「部落出身」9%、「家柄」8%、「家族に障害者」6%、「国籍・民族」5%であった。しかも、それらすべてが親族から反対され「結果的に交際を断念」している。

今回のプライムで少なくとも1万件以上の結婚調査があったとしても、日本の人口の割合からすと、身元調査をされた人の圧倒的多数は部落出身者ではない。その場合、身元調査された本人は何も知らないまま結婚し、身元調査をした側の差別体質も変わらないまま、結婚生活を送っている。こうして、「被害がみえない被害者」が多数存在し、身元調査が繰り返されてきた。

逆に相手が部落出身者や在日韓国・朝鮮人などであれば、身内から反対され結婚差別を受けている可能性が高い。探偵社に何十万円も払って、結婚相手の身元調査をするぐらいだから、部落出身者や在日韓国・朝鮮人などのマイノリティとの結婚に反対することは容易に想像できる。

また、同和地区を避ける市民の意識は不動産取引においても同様である。2011年に山口県内の不動産業を対象にした調査では、不動産取引において、過去数年以内に「取引物件が同和地区かの質問」を35%の人が受けている。また、大阪府の調査(2010年)では「取引物件が同和地区ということで不調になった」44%、「物件が同和地区の場合は避ける」55%という結果が出ており、土地購入や結婚など利害が絡む場面において、市民が同和地区を避けるという実態が根強くある。

このように、市民のなかに部落を忌避する差別意識があるからこそ、身元調査の依頼をする市民がいて、次々と巧妙な手口で、戸籍の不正取得が繰り返される。身元調査の規制と同時に、市民の差別意識の払拭が求められており、そのために、学校、地域、職場などあらゆる場において人権教育・啓発のさらなる充実に取り組んでいかなければいけない。

Copyright 2008 Yamaguchi pref Human Rights Education Center.

関連記事