網の目からこぼされる子どもたち 広島県同和教育研究協議会 事務局長 香渡 清則さん

山口県同教の学習会が8月28日、宇部市厚南会館でおこなわれた。講師は広島県同教の香渡清則事務局長。「網の目からこぼされる子どもたち」と題した講演が行われた。

香渡さんは現在、広島県内の児童相談所に勤務しており、虐待で苦しむ子どもたちの現実や、子どもの貧困化の問題、教育や福祉をめぐる課題が提起された。ここでは、講演の一部を紹介します。

社会全体がネグレクト状況(責任放棄)になっている。

子どもをめぐる状況

国連で「子どもの権利条約」が制定されて20年が経過しているが、日本の子どもたちをめぐる状況は、より悪化している。
いま、驚くべき数の子どもたちが、情緒的、心理的充足感をもてずにいる。その決定的要因が、親や教職員、おとなとの関係の貧困さにある。
関係性が貧困化した理由は、学校での競争、子どもと関わるおとなの労働条件の悪化や貧困(特に母子家庭)のため、子どもたちのストレスが高まり、いじめ、自殺、精神疾患、不登校など克服できない現状が続いている。
また、子どもの福祉および学力、発達を保障するための補助金等が少ないことなどが国連「子どもの権利委員会」から指摘されている。
今、社会全体がネグレクト(責任放棄)になっている。最近のニュースで、熱中症で亡くなっている多くの高齢者が、子どものネグレクトで死んでいるケースと同じだ。
少ない年金で、家族や子どもたちからも孤立。一人暮らしの高齢者が、真夏の猛暑のなか、クーラーをつけることも出来ずに放置され、孤独死をむかえている。
単に子どもの貧困、虐待の問題だけでなく、社会全体が「自己責任論」の中で、しんどい人たちへのネグレクト(責任放棄)になっている。

ネグレクトの定義

ネグレクト(責任放棄)の定義としては、「怠る、おろそか、無視する、しないでおくこと」である。
一言にネグレクトと言っても「栄養ネグレクト」「衣服ネグレクト」「環境ネグレクト」「保険ネグレクト」「医療ネグレクト」「監督ネグレクト」「情緒ネグレクト」「教育・保育ネグレクト」「遺棄ネグレクト」などたくさんの形態がある。これまでたくさんの子どもたちに関わってきたが、その背景にある親や生活、具体的なケースをいくつか紹介する。

保護者の生活のしんどさによって、親と離別させられた子ども

一人親家庭で子どもにつらい思いをさせたくないと、ふんばっていた母親。
3人の子どもを育てていたが、家賃を払えずに追い出されてしまったたために、3人の子どもを児童擁護施設に預けることになった。子どもの権利条約には、「親子の分離をさせない」とあるが空文化している。

障害者として生きることを余儀なくされた子ども

16歳にして25回を超える自殺未遂の末、下半身に障害が残り、車いす生活している女性。学校の「裏サイト」には、
彼女を誹謗中傷する内容によって、遠慮なく彼女は学校社会から排除される。学校が、子ども達にとってパラダイスにはならなくても、せめて居場所になればと思っている。今は健全者とつながること、障害者として生きることの模索中である。

児童福祉法に守られるべき

10代で、母親になった子ども中学3年生、15歳で妊娠。16歳で出産。
彼女は寂しがりやで、外部の刺激を絶えず求めていた。
ウケやノリといった「その場が楽しければいい」という最近の社会風潮の中で目立ち、不快や退屈の耐性に弱く、問題を解決する能力が極度に低かった。
彼女が子どもを「置きざり」にするのは時間の問題であったので、真剣に彼女と向き合った。
とにかく、私たちは、彼女に利用出来る福祉制度をきちんと知らせた。
「母子手当、児童扶養手当、子ども手当、生活保護」など。困難を解決する力がないから、しんどい現実から逃げる=子どもを置きざりにする、という行動をとってしまう。
それがコインロッカー殺人、産後の産み捨てにつながる。多くのケースが母親をはじめ家族の都合で児童家庭(子どもたちだけの生活)にされた子ども。
表面的には、何事もなくすごしているようにみえるが、実際は大きな課題を抱えされられている子ども。発達障害圏とされる子ども。強烈な性の洗礼を受けた子ども。
あげればきりがないくらいのケースがある。特に性的虐待に関しては、実態は多くあるが、まだまだ相談件数が少ないのが課題。相談に来る多くは、義父からの性的虐待。母親に被害を受けたことを相談しても「お父さんが、そんなことをするはずがない」と言われる。
そう言われた子どもは誰にも相談できずに、一人で抱え込んでしまうからだ。ましてや、学校の先生や友人にも相談にできない。そして、おとなになり、恋愛や結婚のときに、フラッシュバックし「自分は汚れた人間なんだ」と、自己否定にはしり、精神的にも身体的にもぼろぼろになっていく。

格差問題のかげに隠れつつある男女格差の増大であえぐ人

性差別は男性も含めた貧困化が原因だ。虐待の多くは、貧困ゆえに、他者にすがりつくしかない現実がある。特に、女性が追い込まれてしまうケースが多いのが現実だ。

今、私たちがするべきことは

網の目からこぼされる原因は、家庭環境をとりまく状況の変化が大きいことは明らかである。
家庭の孤立(とりわけ母子の密着関係、母子カプセル)、育児の密室化、おとな・地域の養育力の低下、保育ニーズの増大、格差社会による長時間労働によって、女性が犠牲になっている。
過保護か過干渉の問題点もある。その結果、育児不安・虐待・DV、家庭内暴力が生起しやすくなっている。このような現実を前にして、私たちには何ができるのか。
まずは、安心できる家庭環境づくりを含めた、居場所の確保をあらゆる角度からしていくことだ。

なぜ、子どもは問題行動に走るのか

一番の要因は、親から見捨てられ、対人不信に陥り「どう幸せになれない」という自暴自棄な思いが一因である。その結果、異常な程度の攻撃性、忘却性、不平等性を生んでいる。
「教育上一番大切なのは家庭」「自然が人間を感化し、家庭の空気の陶冶が人を育てる」と言える。保護者、おとなの対応として、厳しく指導しながらも、無条件で自分を受け入れてくれ、やさしく包み込んでくれる人との出会いが大切である。

今、社会全体に人権課題を保障する機能が壊れている

02年の特措法後、学校現場では、「進路保障」「学力保障」などの「保障」というかわりに、「支援」という言葉が使われるようになった。「支援」によって、手をさしのべる発想であるため、学校や社会の責任を見えにくくしている。そのため、子どもは、学び、労働から逃避、保護者は子育てに責任を持とうとしなくなっている。
子どもの権利条約の国連勧告として、「すべての児童生徒を対象とする人権教育および平和教育の提供を確保するとともに、これらのテーマを子どもの教育に含めることについて、教職員の研修をすること」勧告されている。
しっかりと、「子どもの権利」の問題として考えていく必要がある。