子どもたちの進路保障をめざすキャリア教育の創造【講演者 桒原成壽】

全国同和教育研究協議会 副委員長 三重県伊賀市立柘植中学校 校長  桒原成壽

【2008年8月 解放新聞 第28号より】

「進路」保障とは

これまで「進路保障は同和教育の総和」と呼ばれてきました。「進路指導」と「進路保障」は違います。「進路指導」とは、子どもたちの就職先や進学先を、その子に応じて探し、指導してくものです。「進路保障」とは、単なる進路のあっせんではなく、子どもの卒業後の生活をいかに保障するかを重視したものです。子どもの卒業後の暮らしと生き方には、それまでの教育活動の成果と課題が端的に表れます。だから「進路保障は同和教育の総和」と呼ばれ、解放運動では、これまで差別に負けない確かな力の獲得、高校卒業生用の「全国統一応募用紙」や奨学金制度の充実、企業啓発などに取り組んできました。これまで桒原さんは「進路保障」というのは、就職や進学を前にした中学校や高校の取り組みであって、小学校の教員の自分にはあまり関係がないと思っていました。

「進路保障」を意識せざるをえなかった訳

しかし、12年ぶりに、再び柘植小学校に戻り、校区や地域の実態の変化と進路保障に関わる課題に直面します。それは「子どもの生活状況の二極化」と「単身家庭の増加」でした。特に、部落の子どもたちはそれが顕著でした。生活状況の違いが子どもの学力や進路をはじめ、なかまづくり、保護者間の気持ちのズレなど様々な姿に大きく影響していました。このような部落の子どもたちの生活の現実を前にして「生活を高め、未来を保障する」教育活動が出来ているのかが問われました。20年前の教え子が保護者になって単身家庭、不安定就労でした。特に母子家庭では、結婚しているときは何らかの仕事をしていたが、離婚と一緒に、その仕事を辞めて、部落に帰ってくる母子家庭が多かった。それは、最初から「なりたい仕事」「就きたい職業」に就いている訳ではなく「すぐにやめてもいい」と思う仕事にしか就いていなかったからです。「進路指導」のように中学校・高校卒業時までの取り組みでなく、その子が親になり、保護者になったときに、次の世代の「子育て」としてまでの取り組みの重要性を痛感しました。ここで「進路保障」という言葉が重くのしかかりました。格差社会は、個々の子どもたちの生活に影響を及ぼしています。一般社会に見える実態・影響は、部落にも当たり前に現れます。部落には、一人親家庭や修学援助など課題が顕著に見えます。逆に言うと、この部落に顕著に表れる課題に対する取り組みは、一般地区の子どもたちへの取り組みにもなります。落合恵子さんは「どんな状況の家庭に生まれたかで、放っておいたら、その子の、人生の大半が決まってしまうような社会」と指摘しています。格差社会が進行する現在では、すべての子どもたちにもこの「進路保障」ということが大事になっています。

キャリア教育って

「キャリア」=「エリート」教育というイメージを思い浮かべますが、そうではありません。ここでいう「キャリア教育」とは児童・生徒一人ひとりの「勤労観・職業観を育てる教育」(文科省)という意味です。柘植小学校の子ども達の現状としては、修学旅行でETCの開閉を見て目を丸くする子ども、食経験のない子どもなど、部落の子どもに知っている職業を聞くと、母親とおばあちゃんの仕事しか知りませんでした。このように、子どもたちの生活状況や生活環境の違いは、生活経験の違いとなって現れます。それは、将来展望にも影響してきます。その生活経験の違いを埋めることがいかに大事か。これらの課題を克服するために、柘植小学校では、①マイノリティの子どもたちに自信と誇り(自尊感情)を持たせること、②学力をつけること、③経験を広げ、生活を高めていき、将来を思い描くこと、④その基盤としてのなかまづくり、を柱として取り組んできました。修学旅行での大学体験や職場体験、多様な人生モデル・職業モデルと出会わせていく体験活動など、学校の人権・同和教育実践の中に「進路保障としてのキャリア教育」を位置づけた実践報告でした。